スミレの花束を君に

吹き抜ける風に春の訪れを感じるどころか花粉入り混じって涙目になっている昨今、皆さまいかがお過ごしでしょうか。ソウルコンが無事に幕を下ろしたので、今回はShow  me the  money 3の話をしようと思います。ええ、まだまだ2014年の話するんで……花様年華遠いわ……ということで早速本題にいこ!

VASCOのロック事件

なんで突然Show me the money?って話なんですけど、少年団がDARK&WILDのショーケースでSMTMとVASCOさんの名前を出してたんですね。そこでまず興味を持って、それに加えて、当時の韓国ヒップホップシーンを知れば、少年団の活動への解像度が上がるのではないかと考えたのと、詳しくないけどK-HIPHOP好きやし!という気持ちで気軽に調べて行ったらなんとまぁ面白かったんだな!!!!

私の所感はさておき、前述したDARK&WILDショーケースでのメンバーの発言が以下。

メンバーたちは「『Danger』は100%ヒップホップではない。最近『SHOW ME THE MONEY』のVASCO先輩のステージもそうだし、何がヒップホップかをめぐって色々な論争があると聞いている。『Danger』はヒップホップベースにダンスやボーカルのメロディ要素を考慮した曲だった」と説明した。

また「この曲は2000年代前半に流行したクラブチューンをベースにしたヒップホップ曲だと言えるが、僕は技術的にはヒップホップだと言いたい」と説明した。*1

メンバー(誰が話したんだろうね?)が名前を出したVASCOさん、もとい現BILL STAXさん(SMTM3時はVASCOさんだったので以下VASCO呼びで行くッ!)は、2000年から活動を続けているベテランラッパー。知名度はもちろん高く、参加者たちから一目置かれていたし、会場の沸き立ちようも段違いだった。

ラッパー同士が競い合う番組だし、ヒップホップのトラックを使ったものが大半を占めるのかと思いきや、VASCOさんはバンドセットを引き連れてシャウトを混ぜ込んだハードロックにラップをのせて披露したんだよね。VASCOさんのPDチームだったスウィンスとサニは肯定的に捉えていたけど(途中で苦言呈してたけど)、他のPDたちは眉を顰め、特に真っ向から否定したMASTA WUさんは「That's no-no」と発言し、この言葉は後にトレンドとなったようだ。

PDたちが難色を示したように、視聴者の意見も分かれ、「VASCOのパフォーマンスはヒップホップなのか?」という論争が巻き起こったらしい。しかし、VASCOさんの後に続くように他のラッパーたちもステージにバンドセットを用いたり(toxic出てきたの懐かしすぎてウケた)、楽曲をロック調にアレンジして使用したり、VASCOさんのパフォーマンスに難色示した割には寛容なんじゃんと思う流れではあった。エモラップっていうポップパンクにラップをのせたジャンルもあるし、日本でいうミクスチャーバンドは洋楽ではポピュラーな部類に入ると思ってたんだけど、トラックもヒップホップのアティテュードに則ってないとヒップホップと見なされない空気感だったのかしら。

そしてここで引用したDARK&WILDショーケースの内容に戻るとあら不思議!当時の少年団への解像度が上がっているではありませんか!(うるせぇ黙って履修しろ)是か非か、彼等がカムバックするタイミングで音楽性に関する論争が巻き起こっていて、なおかつDangerはギターサウンドが特徴的な楽曲で、メロディラインも含めてあまりヒップホップ要素が強いとは言えない。強弱の違いはあれど、まさにVASCOさんと似たような条件の楽曲で、SMTMが話題になっている状況下でカムバックしてしまった少年団、奇遇すぎ。後続曲のホルモン戦争はより一層音楽のロック色を強くなってるし、スタイリングもブリティッシュパンク寄りになってるの興味深いよね。ショーケースで「技術的にはヒップホップだと言いたい」と付け加えているあたり、メンバー自身はヒップホップに拘りたい気持ちが強くあるのに、事務所が提示してくるコンセプトがどんどんヒップホップとは遠いところに連れて行っちゃうんだもんな。

この先もタイトル曲のヒップホップ離れは続いていくわけだけれども、ラップラインがどのように折り合いをつけていくのか、見届けていきたい。

アイドルラッパーの線引き

SMTM3には当時YGのサバイバル番組「WIN」でデビューを逃したBOBBYとB.Iの2人も参加してたんだけど、彼らふたりは参加者からアイドルラッパーとして蔑まれることが多かった。特に準決勝まで勝ち進んでいったラッパーのオルティは、バビを「バービー人形」と揶揄したりと直接的な言及を見せバビ先輩もなかなかのお冠状態だった。そんな俺はアイドルラッパー認めねぇぞ!と言わんばかりのオルティが、ライブのゲストに選んだのがBlock.Bのジコさんだった時は椅子から落ちたな。なんせ、アイドルオタクからしてみれば、バビもジコ先輩も同じくアイドルの括りに入れていたから。

オルティのそこの線引き興味深いなと思いつつ、彼はジコさんを選んだ理由として「以前一緒にステージに立ったことがある」と話していたから、アイドル云々っていうより知名度があって一緒に上手くやれそうな人を選んだって感じなのかも。それに、ジコさんはアイドルとしてデビューする前からミックステープを出したり精力的に活動してたみたいだから、オルティとしては活動歴の長い先輩と認識していたのかもね。それに付随して、アマチュア時代に自主的に活動してたかどうかもひとつの指標なのかもな〜ってサガシショーのRMさん回でイレブンさんが話してたことを思い出したりした。アイドルであっても、積み上げてきた経歴と大衆に認められるテクニックがあれば、”アイドルラッパー”とはカテゴライズされにくいのかもしれない。

ジコさんはSMTM4でプロデューサーに抜擢されるので、当時アイドルグループのメンバーではあったけど、大衆の言う“アイドルラッパー”とは位置づけが違っていたのかも。SMTM4もいずれ追いたいところだな。

IRONくん

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SMTM3で最もデカかった収穫はアイオンくんに出会ったこと、これに尽きる。アイオンくんは、元々バンタンプロジェクトの練習生としてビッヒに在籍していた人で、グループの方向性がアイドルへと舵を切ったのをきっかけとして練習生を辞めてしまった*2。そんな彼がSMTM3に参加するとのことで、ナムさんも公式Twitterで応援のツイートをしたりしてた。

お時間ある方には是非このセミファイナル「毒気」の凄まじい気迫を見てほしい。SMTMを見進めていくうちにどんどん惹かれてはいたけど、カメラとオーディエンスに対峙して力強く言葉を口にする彼を目の当たりにしたとき、完全に心射抜かれてしまった。自らの生活を独白のように赤裸々に語ってみせ、生きる為に必死だった彼をそのまま表した偽りのない表現の羅列だからこそオーディエンスの心を掴める迫力のあるステージに仕上がったんだろうなと思う。プロデューサーのYDGがほぼ関与しない形だったから、アイオンくんは実質ひとりでこのステージを作り上げたんだよ……シヒョギは彼を逃したこと、悔い改めなね……。

このセミファイナルで披露した毒気が思いのほかバズったみたいでSMTM3終了後には各所からラブコールが。SHINeeのジョンヒョンさんやPrimaryの客演など有名なアーティストと仕事をしたりしてるんだけど、一方で彼自身がリリースした音源はとても少ない。2015年のシングル「Blu」と、所属しているヒップホップクルーRock Bottomのメンバーと共に作り上げた2016年リリースのアルバム「Rock Bottom」だけ。

MVを見ながらこの曲を聴いた時、衝撃を受けた。楽曲のニュアンスから言えばSMTM3の彼と地続きであるとは感じるんだけど、MVのおどろおどろしさと諦観すら含んだようなトラックに圧倒されてしまい……。歌詞の内容も業界への批判が書き連ねてあり、人見知りだと言う彼がメジャーで上手くやれずに摩耗していった心境が綴られている。一方で、彼はSYSTEMをリリースする前に大麻吸引で立件されているんだけど、最後の展開が変わる歌詞未公開の部分で「大麻に対する考えは変わらない」と書いていることに加え、YGアイドルのディスが含まれていたことでネガティブな反響が多かった、らしい。SMTM3から2014年MAMAの流れを見てると、準優勝だった彼がYGに対して良い感情を持っていなかったとしても不思議ではないかな、とは思う*3

けれども、このアルバムの出来はすごく良くてトラックのテイストも多種多様。ロックベースの音が強く響く「Rock Bottom」から、バンタンオタクにはお馴染みのSupreme Boiさん客演の「HATE the LIFE」はボイさん(ボイさん)のテイストめっちゃ出てんな~って思うし、彼の少年時代を歌った「ハナムチュゴンアパート」は郷愁の漂うメロディと彼の独特な声が混じったエモーショナルな仕上がり。そしてこのアルバムはそれぞれの歌詞の内容が濃くて……。SYSTEMは業界批判、ハナムチュゴンアパートは彼自身の不遇な少年時代について、そしてラストのTurn Backは慰安婦の体験を元に書かれている。いや、重いな!!??って感じなんだけど、だからなのか、彼の音楽は聴いてるとどこかヒリヒリするような感覚があるんだよね。できれば目を背けたいものを剥き出しで差し出してこられているというか……私は痛みや傷を言葉にしていく彼の姿勢がとても気に入って好きになった。彼の音楽やラップ、創作に対する真面目な気持ちが表れているから「Rock Bottom」というアルバムがとても纏まりの良いものに仕上がっているのだと思う。

と、こうやって彼の才能を褒める一方、彼が巻き起こした事件や議論は多く、褒められた人間とは言い難いのが事実。先述の大麻の件に加え、2件の暴行事件も起こしている。どんな理由があっても暴力は許されないよ……。ハナムチュゴンアパートの歌詞を読む限り、幼少期の貧しい生活の中で人から尊厳を踏みにじられ傷つけられた経験も多いみたいだし、慰安婦の体験を歌にしたことも含めて、人の痛みに敏感な人なのかと思いたかったんだけど……その辛さが自分より弱い存在に向いてしまったんだなー……。心の隙間を音楽制作に向けてくれたら、理解されない苦しさや悲しみを歌にしてくれたら良かったのになぁ……。でもそれも、彼の周囲に彼を受け止めてくれる人がいなければ成立しないことで、彼が音楽制作を続けていく土壌、彼が心理的に安心して過ごせる場所があって欲しかったなぁ〜って何も知らないくせに考えたりしました。オタクは感情移入が趣味なので。SMTM3だけを見れば、不器用だけど根は真面目な良い子なんだろうなって思ったんだもん……あれも編集による産物だからすべて信じて良いとは思わないけどさ……。

彼は2020年にインスタに長いメッセージを残していて、それは現在作成しているアルバムがある、というものだった。でも、そのアルバムも音源もリリースされることがないまま、彼はこの世からいなくなってしまった。私が彼の魅力を知った時は、もう彼がいなくなった後だった。

毒気の「俺は芸術が学べなかった」っていう歌詞がなぜか強く印象に残っているんだけど、境遇のせいでやりたくてもできないことが多かったんだろうなぁ、と思って。才能があっても拾われない、救われない、こんな世の中poisonすぎてマジで無理(突然現れた平成のギャル)。彼自身がやりたいと思ったことを躊躇なくやれる環境で伸び伸びと音楽をやっている姿を見ていたかったなぁって思いながら、でも痛みを知っている彼だから「Rock Bottom」という素晴らしいアルバムを世に残すことができたわけで……と、オタクは勝手に葛藤を繰り広げ、鬱々とした2月を過ごした(マジの話)。

たまたまだったけど彼のことを知ることができて良かったなと思うし、彼が人を傷つけてきたことは容認できなくても、彼の音楽はとても素敵だと思うので今後も聞いていくだろうなと思う。私に色々と考えさせてくれてありがとう。最初で最後のアルバム、大事に聞いてくよ。

まとめ

もう少し簡単に感想書いて終わりにしたかったんだけど、アイオンくんについて調べていくほどに切なくなってしまって駄目だったね~……。彼を通して「人は1人では生きていけない」ということを実感し、2月後半は若干バッド入っちゃって、もうオタクそうやってメンタル引きずられるなら情報取りに行くのやめな~~?って感じなんだけど、オタクから情報収集という趣味を奪ったら何も残らないじゃない……妄想する屍になるだけなんだからもっと危険な人間になるだけなんだもん……SMTM3を通じて当時の韓国ヒップホップの雰囲気を味わえたのは良い経験になったから、少年団の履修と共に気が向いたらSMTMも見ていけたらいいな~と思ってる。まぁお得意の予定は未定、なんだけどね。なんせ、未だに2014年から脱出できていないから……。

ということで、次は2014年の年末歌謡祭やMAMAの感想をざざっと簡単にまとめて2014年とさよならしたいなと思います。少年団の丁寧な履修、不毛では?と自分自身思うこともあるけど、ちゃんと彼等の軌跡を見てから一過言かます人になりたいので!ということでまた次回。

 

*1:

news.kstyle.com

*2:アイオンくん本人は事務所を辞めたことについて「模範を見せるアイドルグループの一員としては、チームに迷惑をかけそうで練習生を辞めることになった」とインタビューで話している。確かに過去の行いを引き合いに出されたら、アイドルという職業として彼を擁護するのはなかなか難しかったとは思う。

*3:歌詞の内容がバーニングサン事件の批判と予言になっていると後に再注目されたらしいので、YG周辺のことだって印象付けたくて後半のディスに引用したのかもね。